闇馬事件の続きです。

運搬用の馬を購入

当時は戦時中でしたので、お国のためにやっている事は多少の法律違反は見逃してもらえる風潮がありました。

例えば統制品(※注)の米を勝手に買い付けても、戦闘機を日夜増産する従業員昼食と夜食用ですからと予め警察へ根回ししておけば黙認してもらえました。

統制品の馬は、昭和の初めのころ騎馬兵や野砲運搬用に軍馬が重要な役割を担ってきましたが、太平洋戦争が始まれば馬は時代遅れとなっていきました。

三菱社員は馬ごとき…統制品といえども有名無実、勝手に買っても問題無いと思っていました。

岩手県には岩崎家所有の東山牧場があり、ペルシュロンという大きな馬がいました。

この馬はおとなしくて、力が強い種類でした。耐久力もあり、機体運搬に最適と三菱社員が買い付けを決めました。

東山牧場のみでは頭数が不足でしたので周辺の牧場へも協力してもらいました。

馬一頭の公定価格は900円(昭和18年当時)でしたが、若くて特に強い馬を選んだので2,200円となりました。一応統制品でしたから、三菱社員は岩手県庁や警察へ念のため根回しをしました。岩手県庁職員も協力的でした。

罪の意識はなかったようでした。

買い付けは順調に進みました。昭和19年早々には続々と名古屋に運ばれてきました。全部で89頭になり、機体運搬が開始されました。運搬時間が相当短縮されました。

ところがある日、岩手県警察に投書が寄せられました。

「我々が少しでも高く買えば警察にすぐ捕まる。天下の三菱なら平気で黙認するのか!」

という内容でした。

警察も無視できず関係先に連絡しました。三菱も連絡を受け、弁護士同伴で軍関係者、県庁、警察へ出向き事情を説明し、穏便に扱ってもらえるようお願いしました。当時の警察幹部はこれに対して同情的であったといいます。

その後、投書の発信者からは半年過ぎても何も音沙汰がありませんでした。

これであの一件は終わった、一件落着?と思い三菱側が安心していたところ、思わぬところから横ヤリが入って来ました…..続く。

※注: 統制品とは? = 戦時中は物品が不足したので勝手に売り買い出来ない法律がありました。国が決めた重要品、国の許可を得て自費で買う品物を統制品と言いました。それに対し家庭で消費する米などを配給品と言います。