約60年前

九州であった話です。

足の不自由な老人が搭乗するところでした。その老人は足を引きずりながら飛行場エプロンを横切り、タラップ前で出迎えた操縦士たちに苦情を言いました。

「飛行機にエレベーターがついとる聞いたばってん乗りにきたとよ!エレベーターに乗りたか!どこにある?田舎者だからだましとっと?!」


「あの…お客様…エレベータはお客様がお乗りになるものではございません。」

当時の飛行機搭乗はタラップという移動式の階段から搭乗するのが普通でした。九州ばかりでなく羽田空港も同様でした。タラップ前で機長と副操縦士に切符を確認してもらってから階段をのぼり機内に入ります。

足が不自由な老人にはたいへんだったと思います。せっかく大金を払って念願の飛行機に乗るからには一言文句を言いたかったかもしれません。

その頃、東京→博多間の運賃が大学初任給の2倍くらいでしたから今考えると相当な出費でした。

運賃が高い割に当時の搭乗手続きは相当いい加減なものでした。

当時私の父親は空港までのバスが遅れて、あわてて羽田空港で1階ロビーを素通りし、手荷物は検査無し、エプロン(駐機場)まで走って飛行機に乗ったことがあったそうです。いまなら許されず、無理強いしたら逮捕されるかもしれません。

(了)